当研究会の設立趣旨
フェロトーシス(Ferroptosis)という言葉が2012年のCellの論文や2015年のNatureで初めて提唱されて以来、フェロトーシス細胞死が提唱されています。
フェロトーシスは,細胞死のひとつの機構と考えられていますが,アポトーシスやネクローシスやオートファジーの3つの細胞死とは異なる特徴を有します。フェロトーシスでは,鉄依存的な活性酸素種の発生と過酸化した脂質の蓄積によって,細胞死が起こります。
細胞内の鉄に依存する機構であり,ほかの金属類には依存しません。
がん医療においてフェロトーシスを誘導するのは、アルテミシニンやアルテミシニン誘導体アルテスネイトです。アルテスネイトは分子の中に鉄イオンと反応してフリーラジカルを産生するendoperoxide bridgeを持っており、がん細胞は鉄を多く取り込んでいるので、その鉄と反応してフリーラジカルを産生してがん細胞を死滅させるという作用機序が提唱されています。また、アルテスネイトは、多くの癌組織で過剰発現しているSurvivin(抗アポトーシスタンパク質)を下方制御し停滞したp53遺伝子による腫瘍細胞のアポトーシス誘導を復活させることも分かってきています。
アルテスネイトは、日本では数年前から海外より輸入して開業医を中心に臨床応用されてきましたが、それぞれの医師が自らの治療実績からある程度のデータは得ているものの、それらを持ち寄っての臨床研究会などはまだ開かれていませんし、これらに関する系統だった知識の習得も充分とは言えない状況にあります。しかしながら、この分野の研究を推進することは副作用の極めて少ないがん治療の実現に寄与するものであり、患者の負担を減らすために大変有益と考えます。ご関心をお持ちの皆様とともに研鑽を重ねて参りたいと思います。
2017年4月11日
(社)日本フェロトーシス臨床研究会
理事長 中村 仁信